闇の公子
出会う前からアズュラーン様をお慕い申し上げているオタク人生でした。
は?と思われたでしょう。なにいってだコイツ、と。
ちょっと話は長くなるのですが、聞いてください。
まず私という人間が生まれて初めてオタク的に気に入った作品が、亡きコンパイルが世に送り出した「す~ぱ~ぷよぷよ」というゲームでした。
そう、あの落ちものパズルゲームです。4つ繋げると消えるヤツです。
そのゲームキャラは、更に元を辿れば同社が出していた「魔導物語」というタンジョン探索型RPGから来ています。そのころからメインキャラクターであるアルル、ルルー、シェゾ、そしてサタンさま。私は彼らが特に大好きでした。一生添い遂げてもいいと思うほどでした。
しかし、ご存知のようにコンパイルは倒産しました。
途方に暮れた私は、それでも初恋は忘れられない…と思いながら生きました。
もちろんセガに版権が移った彼らを追いかけていたこともありましたが、アルル以外のキャラをリストラされたり、あげく聖魔導物語とかいうキャラ挿げ替えゲームまで出る始末で、なんだこのゴルゴタの坂ジャンルは……とさすがにめげかけていました。
そんなある日、Twitter及びブログにて「魔導物語」のディレクターでありシナリオライターである米光氏が元ネタとして「闇の公子」を紹介してくれたのです。ちょうど復刊した頃合いでもあったと記憶しています。
というわけで、私は藁をもすがる思いでこの本を注文しました。
そして、気づいたのです。
私のオタク人生は無意識にアズュラーン様の面影を探し追い求めていたのだと。
15年かけてやっと会えたオリジナルに私の心は咽び泣きました。
はっきり言いますが、彼を参考に作られたキャラ全てと比べ物にならない。それくらいアズュラーンはオリジナルの格というものがありまして、その緻密に完成されたキャラクターぶりには感動しちゃいましたね!
これが、これこそが本物なんだ!と。
そんな経緯もあって、私はアズュラーン様にはもう本当に並々ならぬ思い入れがあるわけですね!
長い自分語りも終わったので、早速本編の感想行きましょう!
当然のことながらアズュラーン贔屓で書いてますので、そこはご了承ください。
まず初っ端から始まるホモことお耽美描写。タニス・リー先生の十八番ですが、私はとっくに腐女子でしたので、アズュラーンとシヴェシュのそのようなアレなシーンは特に抵抗なく読めましたね。
いやー最初の一発目から清々しいほどスーパー攻め様ですよね!アズュラーン様。
それでいてこれがスーパー攻め様の正しくあるべき姿なんだなあ、とも思いました。我々の思い浮かべる典型的なスーパー攻め様というと、受けに理不尽なイチャモンつけて何かとセックスを強いるのがお決まりの流れですが、アズュラーン様にはそういう理不尽さも強引さもないですからね!それでいて最近のスパダリほどは甘くなくキレキレなところも見せてくれますから、さすがアズュラーン様!おれたちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!!となりますな。
そんなアズュラーン様で一番のお気に入りの台詞は、対ゾラーヤスの一転攻勢のときのもの。
「いま天井を開ければ予は滅ぶかもしれぬ。そのほうは復讐を遂げたことになろう。したがその後は短い人生を空ろに、仮面に永久に封じ込まれたまま送るばかりだ。人はそのほうの前にひれ伏し、そのほうの軍に加わって闘い、闇の公子の一人であるアズュラーンをそのほうがいかにして手玉に取ったかを語ることであろう。だが生涯を通じて、そのほうを求めてわななき、その唇に接吻し、愛を謳う者は男女を問わず一人とてあるまい。氷のごとく冷たいまま墓に食われ、一度とて歓びを知らなんだその体を虫が楽しむことであろう」
タニス・リー「闇の公子」
このときまだ年齢=恋人なし歴だった私はとてもクリティカルヒットで読んでて震え上がった思い出です!(どうでもいい!)
まあそんなわけで平たい地球シリーズの台詞は大変キレキレなものがたくさんあって、私はそこがもうたまらなくて惚れ惚れしてしまいました!特にアズュラーンの台詞はどれもかっこいいですよね~。そもそも語り部口調の地の文も、古風で雰囲気が最高なので本当に読んでいて楽しい。
タニス・リーと浅羽莢子訳が合わさり最強に見える。それに尽きるぞ、平たい地球シリーズは。ぶっちゃけ原書で英文読むより良い和訳なので、日本人で良かったと心から思える本です。
でもなんと言ってもやはり原作者タニス・リーはギャップ萌えを書くのが上手い!
アズュラーンは誰もが恐れる夜の公子。人間を破滅させて遊ぶのがお好きな御方。しかし終盤、その人類自体の絶滅の危機を知った彼の描写はというと、
さよう、不安の王アズュラーンは恐れていた。人類の死滅を予見し、憎悪が黒い月さながら空に昇るのを見てその中に人間の破滅を読み取った。妖魔の目を持つ公子には、形を持たぬ憎悪の形が見え、金属を浸食する酸の臭気が世界の生命を蝕んでいるのを嗅ぐことが出来た。アズュラーンは地上をのがれ、地下の都にのがれ、宮殿の奥の間に籠り、恐怖を誰にも目撃されぬよう錠をおろして一人で震えた。さよう、恐怖である。恐怖の王アズュラーンが怯えているのであった。
タニス・リー「闇の公子」
、、、、、、、、、、
怯えているのであった。
これだからなー!萌えざるを得ない!!
打って変わって人類の危機のために奔走するアズュラーン様、何もしない神の代わりに己の犠牲をもってして救う。それが限りなく崇高で純然たる愛でなくてなんであろうか?その御姿に心打たれない人間があろうか?いやいないね!
ここに来てアズュラーンの唯一の弱点である太陽の光が最高に美しい描写で書かれているのも、とても圧巻です。タニス・リーの色彩感覚が素晴らしいなと心から思いました。
つまり、このように一見完全無敵なキャラクターであっても、わざと隙を入れているところが本当にタニス・リーは上手い。そのせいでやっていること自体は悪行三昧でも何処か憎めなくなります。そしてその隙を突かれて破滅していくのが「闇の公子」のキャラクターたちとも言えます。人間だけでなくアズュラーンさえも、というところが本当に良くできた物語だなと私は感心しましたし、その滅びの美学に惚れ惚れしました。
ついでに、そこに果てしない萌えも感じてしまうのはオタクの性なのですが、おそらく当時読んだ人たちもそうであったのでしょう。幼い私が知らずに読んでいた漫画、遊んでいたゲームに、アズュラーンをモデルにしたと覚しきキャラが結構いました。中にはキチンと紹介しているクリエイターも。
日本のサブカル界への影響が凄まじかった御方という点でも、元ネタであるアズュラーンの知名度はもっとあるべきだと思いますし、「闇の公子」をもっとたくさんの方に読んでもらいたいなあと常々思っています。
私としては、アズュラーン様に会えない人生など、もはや今になっては考えられません。それほど「闇の公子」はかけがえのない大切な一冊になりましたので、本当にこの本を紹介してくれた米光氏に心から感謝しています。本当に出会えてよかったです。
だから早川書房さん、はよ電子書籍化お願いします。
絶版地獄では布教もできやしないし、老眼が差し迫るBBAにとっても切実な問題なので、なにとぞ!