名刺代わりの小説10選
Twitterで読書アカウントがほぼ必ず参加しているハッシュタグ。
私は読書アカウントというよりオタクアカウントだけれど、小説もまあまあ読むオタクなので、いつか参加してみたかった。
タニス・リーファンなのでタニス・リーだけで10冊余裕で組めるが、それではタニス・リーファンにしか興味を持ってもらえないので……
1作家に1冊縛りを設けてみた。
意外に10冊埋まらないので結構困ったという。
というわけで少々ジャンルに偏りが見える10選だけれど、推し小説をオススメしていきたい。
ちなみに本当はnoteに投稿しようと思って書いた記事なのだが、なんかnoteの客層と合っていないような気がしたのでやめました。オタクのこういう記事はどこに需要があるのか、コレガワカラナイ。
タニス・リー『闇の公子』
やはり一発目は大好きなタニス・リー。そして平たい地球シリーズ!
残酷で耽美なダークファンタジー小説です。
物語は妖魔の王アズュラーンが引き起こす破滅の連鎖で結ばれており、その行く末を見届けたころには読者もすっかり彼の魅力の虜になっていることだろう。作中の人間たちがことごとくアズュラーンに抗えなかったように。
タニス・リーの色彩豊かな描写力と圧倒的な筆力、それを古めかしく雅に翻訳してくれた浅羽莢子の文章がすばらしい!
日本語とはこれほどまでに美しく書けるものだったのだなあ、と私はこの本を読んで改めて感動しました。正直、原語で読むより良い翻訳!
物語の構成はオムニバス形式なので読みやすく、しかしながら各所に散りばめられた伏線の、最後のシーンに向けての収束ぶりは圧巻!
夜と朝日を最高に美しい描写で描いてくれる作家、タニス・リー。
耽美描写に抵抗がなければ、ぜひとも一度は読んでほしい本です。
しかし絶版地獄なのが玉に瑕。ハヤカワ、せめて電子書籍化しろ。
ちなみにアズュラーンは『ぷよぷよ』のサタンさまや『サガ・フロンティア』のオルロワージュの元ネタでもあります。
オリジナルの圧倒的キャラ造形の深さに平伏すがよい。私はすっかりアズュラーン様を我が君とお慕い申し上げるミミズであるぞ。
なんと言っても彼は《悪》の君でもあるので、セリフが一々キレキレすぎて惚れてしまうのである。
そして私は平たい地球シリーズをまとめた記事も書いているので、『闇の公子』が気に入って、他のシリーズ作も読みたくなったらぜひこちらを参考にしてください。そして感想を私にもぜひ聞かせてください!
J・R・Rトールキン『シルマリルの物語』
トールキン、言うまでもなくファンタジー小説の金字塔。
わりとガチめなトールキンファンなので、『指輪物語』と『ホビットの冒険』よりもマイナーな『シルマリルの物語』をダイマする。
『指輪物語』読者は「ゴンドリン」だとか「フェアノール」だとかの謎のカタカナ固有名詞に困惑した覚えがないだろうか?
その正体は、ほぼ『シルマリルの物語』に出てくる人物や都の名前である。
だからそれで『指輪物語』を挫折した覚えのある読者は、いっそ『シルマリルの物語』から読むのも一つの手だ。そうすると時系列順に読めて、頭に入りやすくなる。
謎のカタカナ固有名詞も感慨深く思えるようになり、そのあまり涙すら出てくるかもしれない。私がそうでした。
そんな『シルマリルの物語』、いわばエルフの堕落歴史物語である。
エルフは清廉潔白な存在であると思いこんでいた読者に、いきなり同族殺しという強烈なパンチをお見舞いしてくる。それをやらかしたのが、あのガラドリエル様の伯父だ。サウロンの上司に親父を殺されたので復讐を誓い、子供も巻き込んで呪いのような宣誓を立てた。
そこからはもう、ドミノ倒しを見ているかのような滅びのストーリーが各所で始まっていく。
エルフの壮麗な都は全て滅亡していくぞ。
人間ももちろんエルフたちに関わってくる。アラゴルンの先祖もいて、エルフのお姫様とロマンスを繰り広げている。
しかし私が一番推すのはトゥーリン・トゥランバールの章である。この男がいわゆるダークヒーローの元祖であるため、厨ニ病を患ったことのあるオタクは特に履修すべきであろう。『ゲーム・オブ・スローンズ』も真っ青な究極のバッドエンドをかましてきて、圧巻の一言だ。
とにかくトールキン教授が本気を出した滅びの美学に目が離せない一冊なので、『指輪物語』や『ホビットの冒険』だけで満足していたファンはぜひとも『シルマリルの物語』も読んでほしい。
そうすることで改めて『指輪物語』の大団円ぶりがすばらしいものだと感じるに違いないし、その裏でひっそりと行われた灰色港での別れがより一層感慨深くなるのだ。
西村京太郎『殺しの双曲線』
こいつファンタジー小説ばかり紹介してくるのか…と思わせておいて、ここで国内ミステリー小説をおもむろに取り出してみる。
西村京太郎はこれしか読んだことがないので迷わず選べた。
アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』のオマージュ小説であり、クローズドサークルものであり、双子トリックを使用した、古典ミステリーファンが求めるテンプレを全て使った贅沢な小説である。
いきなりネタバレしやがったなコイツ!と憤ったかもしれない。
しかしなんと最初のページでいきなり作者がこうバラして読者に断って書いているのだから仕方ない。
これがフェアなのか、いや返ってフェアではない!とかいう議論はあるだろうが、私は「おもしれぇ作者…」と夢小説に出てくる男のような気持ちになりながら読みすすめた。当時ミステリー小説にハマりたてだったせいもあって、私は楽しんで読めた。面白かった。
ふてぶてしい犯人にいかにして制裁を加えるかも見どころ。
私は犯人の動機も、折れた理由も筋が通っていて納得がいったので、今でも一番好きな国内ミステリー小説です。
マイケル・ハードウィック『シャーロック・ホームズわが人生と犯罪』
実は私、シャーロキアンなんですよね!聖地巡礼したほどの!
『シャーロック・ホームズ』と言えば当然コナン・ドイルなのだが、原作はオススメしなくてもみんな読んでいるだろうから、オススメのパスティーシュを紹介したい!
ちなみにパスティーシュとは何だ?と思った方に説明しますとね、ホームズ二次創作をカッコよく言っただけだよ。
このマイケル・ハードウィックのパスティーシュは、いわゆる「大空白時代」の話である。
つまりホームズがモリアーティ教授と共にライヘンバッハの滝壺に落ちてから、ロンドンのワトソンの元に帰るまでの余白を指す。
当然シャーロキアンは「彼は何をしていたんだろう!?」と妄想たくましくなり、格好のネタポイントである。チベットに行っていたなどとまるで信じない彼らであった。
このマイケル・ハードウィックは、実はモリアーティ教授も死んでないことにして、ホームズと共にドイツへスパイさせることにした。
宿敵同士が手を組んで!?そんなの……燃えるに決まっているじゃないか!!
というわけでミステリーというよりはスパイものな二次創作になっている。
ワトソンは全くと言っていいほど出てこないので、ワトソニアンは満足できないかもしれない。モリアーティ教授ファンには絶対オススメ。
マイケル・ハードウィックのホームズ解釈はとても私と合致しているので、結構パスティーシュを読んできた今になっても、『わが人生と犯罪』が最初にして最高のパスティーシュである。
終盤のホームズ兄弟の会話が、まさに私の理想のホームズがする受け答えをしていて、とてもお気に入りだ。
ジェイン・オースティン『自負と偏見』
イギリス小説の名作繋がりで、次はジェイン・オースティンの傑作をあげる。
男女の心の機敏が繊密に描かれている恋愛小説である。
玉の輿はいつの時代も女の究極の夢。だから男の描写がややファンタジーめいているものの、結婚についてリアルに描いているところが名作たる由縁。
しかし何より面白いのが、ダーシーとリジーのキレキレな会話の応酬。なんて萌える男女カップルなんだ!とめちゃくちゃニヤニヤしながら読みましたね!この男女の駆け引きがとても面白い作品!
そしてスーパー攻め様やツンデレに心を奪われがちなオタク女子は、一度はダーシーに出会うべきである。これが元祖にして正解だぞ。
『高慢と偏見』、『プライドと偏見』と翻訳も様々だが、私は評判の良い中野好夫訳で読んだ。古い文体に抵抗なければオススメ。
名作すぎて真面目なレビューはたくさんあるので、私が今さら語っても……
強いて言うならば、リジーの父が言う「夫を尊敬できなければ、おまえは幸せにはなれない」はあまりにも真理をつきすぎていて思わず唸った思い出。夫を妻や友に代えても同じことが言える。相手を尊敬できなければ、どんな人間関係も虚しいものになるだろう。
そういうわけで私はリジーの父が一番のお気に入りキャラなので、『高慢と偏見とゾンビ』というおバカ映画でチャールズ・ダンスが演じてくれてめちゃめちゃ嬉しかった。
もちろん正統派実写化なコリン・ファースのBBCドラマ版や、キーラ・ナイトレイの映画版も見てみましたが、それぞれ良かったですね。
塩野七生『コンスタンティノープルの陥落』
コンスタンティノープルの陥落。
それはもうドラマティックすぎる歴史的転換点。
歴史小説枠では間違いなくこの一冊を一番に推す。というかコレくらいしか読んだことがない。しかし本当に史実をよく調べあげたうえに、まるでその場にいたかのような臨場感溢れる描写を繰り広げていて、タイムマシンにでも乗った気分になった。すばらしいの一言。
特に私はオスマン帝国好きなので、あのメフメト二世が出てくるだけでもうそれだけでポイント高かった。
メフメト二世、オスマン帝国の若きスルタン。
よわい21歳にしてキリスト教圏の最後の砦であったコンスタンティノープルを陥落させ、実質ローマ帝国を滅ぼして白人たちを涙目にし、今のトルコ首都イスタンブールを作り上げたスゴいヤツ。
そんな彼をめちゃくちゃカッコよく書いてくれたのが、この小説だ。
後に征服王と呼ばれたメフメトだが、意外にもスルタンになるまでは不遇な半生を送っており、彼も色々と試行錯誤しながら躍起になって難攻不落のこの都を落としていたことがわかる。だからなのか、この小説では征服者としての畏怖を保ちながらも、共感も覚える人物として描かれている。その塩梅がすごくいい。
対するビザンツ帝国を治めていたのはコンスタンティノス11世。
コンスタンティノスで始まりコンスタンティノスで終わるとかいう、呪いめいた予言を的中させてしまった不幸な皇帝。
彼を取り巻く人物を通して、当時のキリスト教圏の複雑さがよく見えてくる。日本人にはいまいちピンとこないカトリックとギリシャ正教会の対立を、ゲオルギオスとウベルティーノの問答がとてもわかりやすく伝えてくれている。この小説で一番評価しているところかもしれない。
そしてローマ帝国が今も憧れの存在でいられるのも、コンスタンティノス11世のこの最期があるからなのだと強く思いました。
オスマン帝国ファンもローマ帝国ファンも満足できる一冊。
夏目漱石『夢十夜』
第一夜があまりにも有名すぎるので説明不要!
しかし私もその第一夜があまりにも好きすぎる一人なのである。
短編小説枠では最強の一作だと信じて疑わない。非の打ちどころがない。
過不足ない描写で、ラストの百合にかけた様々な意図を思うだけで込み上げてくるものがある。
死という避けられぬ絶望の先にある僅かな希望を感じていたい傾向のある私にとっては、完璧で美しすぎる作品だ。
そして夏目漱石は『こころ』なんてのも書いておきながら、性根は恐ろしいほどのロマンチストだと実感した。
ちなみに夏目漱石の千円札が未だに恋しい私である。
中身メンヘラだったのに、あの柔和な顔に癒やされていた。
J・R・Rマーティン『七王国の騎士』
ここでまたファンタジー小説に帰ってきた辺り、そろそろネタ切れ。
『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作『氷と炎の歌』の外伝とも言うべき一冊である。
本編は紹介しなくても有名だし、もう完結しねえだろ…と諦めているので……。
ドラマ版『ゲーム・オブ・スローンズ』の終わり方には死ぬほどガッカリさせられたが、完結させただけえらいと思いませんか?
『七王国の騎士』は本編より100年前の、ターガリエン家を取り巻くオムニバスな物語である。
主人公のダンクは後に、メイスター・エイモンの兄弟であるエイゴン(通称エッグ)の騎士になる男である。そんな二人の出会いの話と、放浪時代の話が2篇収録されている。
本編より王道な騎士道物語で、読んでいて気持ちが良い。
特に主人公のダンクがとても好感の持てるキャラだ。彼がまともなほうのターガリエンに愛された理由がよくわかる。まともじゃないほうのターガリエンにも口説かれていて笑ったが。
そう、近親姦一族なターガリエンである。一癖も二癖もある王子たちが出てくるのが本当に面白かった。デナーリスファンに喧嘩を売って申し訳ないのだが、やはりターガリエンはレイガーやエッグ時代のほうが面白いと思いましたね。
そして後の三つ目の鴉になる血斑鴉公がめちゃくちゃカッコいい!!
彼の台詞には思わず痺れました……。三つ目の鴉ファンは絶対に読んだほうがいい。オススメ。
そしてこのダンクとエッグシリーズにも続きがある予定と原作者は言うのだが、真面目に受け取るやつおるのか?はよ本編書け。
でも私は正直言って本編より好みでしたが、はよ本編書け。
東野圭吾『容疑者Xの献身』
あのころの私はまだ全然読書家ではなかったのだが、直木賞を取ったというので家族が買ってきた。
そして何の気まぐれか、自分でも読んでみたのである。
もう15年前だ。だいぶ記憶が薄れているので、他の本みたいに詳細にレビューできない。しかしミステリー小説なのだから、返ってそのくらいがちょうどいいのかもしれない。
裏を返せば、それほどこの容疑者Xというキャラが今でも強烈な印象として頭にこびりついている。
だから枠も余っていることだし10選に入れてみた。
探偵役も良い味を出していたが、この本はあくまでも犯人が主役だった。
彼は恐ろしいほどに一人相撲で、身も蓋もなく言えばストーカーというしかないのだが、最後に慟哭のような叫びを上げる。それが今でも心に突き刺さっているのだろう。
ミステリーというよりは人間ドラマとして好きだったのかもしれない。
そして読み終わって初めて『容疑者Xの献身』というタイトルの完璧さに唸るのだ。
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』
トリを飾る最後の一冊に『フランケンシュタイン』を選ぶ。
怪奇小説にして初のSF小説とも言われる本作、女性作家の手によって生み出されたと知ったときは、とても驚いた。
フランケンシュタインというと、怪物のほうを思い浮かべるかもしれないが、実は怪物を作り上げた博士のほうの名前である。
つまり、この哀れな怪物は名前すら与えられなかったのだ。
『フランケンシュタイン』は創造主と被造物の悲哀を描いた物語である。
フランケンシュタインによって生み出された怪物は、その異様な生まれと醜さから誰からも受け入れてもらえず、孤独と惨めさを訴え続ける。
怪物の口は驚くほど流暢で、論理的な主張を繰り広げさえする。確かに彼は知性と理性のある生き物だった。だから、せめて番である女性を創ってほしいと懇願する。愛さえあれば、自分は本物の怪物にならずに済むと。
しかし創造主であるフランケンシュタインも葛藤する。怪物をコントロールすることもできず、信用しきることもできない彼は、結局突き放した。
そうして辿り着いた結末は壮絶の一言である。
このテーマは後にフランケンシュタイン・コンプレックスと定義され、今でも熱い議論を呼び、大学でも教材として持ち切りだ。私もその学生の内の1人である。講義がとても楽しかった思い出。
ちなみに大学の教授が指定したのは、創元推理文庫の森下弓子訳である。
この訳しか読んだことがないものの、この人は私の大好きなタニス・リー本でも何冊か翻訳しているので、良い翻訳者なのは保証する。
ちなみにメアリー・シェリー自身の背景も調べてみると面白い。
たとえば、フランケンシュタインと並んで吸血鬼を思い浮かべる人は少なくないと思うが、それもそのはず。なんとこの2大怪奇キャラは、同じ場所、同じ時間で生まれたと言っても過言ではない。
ある日、詩人のバイロンが湖の別荘で長雨に退屈していたところ、そうだ!怪奇小説を書こう!と招待客に呼びかけたのである。そして真面目に書ききったのがメアリーの『フランケンシュタイン』、そしてバイロンの医師であるポリドリの『吸血鬼』だった。
えっ!ブラム・ストーカーの『ドラキュラ伯爵』が元祖じゃないの!?と驚かれたかもしれないが、このポリドリのほうが先である。彼の生み出したルスヴン卿というキャラが、今日の吸血鬼像のプロトタイプだ。
メアリーの怪物も、ポリドリの吸血鬼も、今では世界的知名度を誇ったキャラクターとして生き続けている。共に並び立ちながら。
そこが何とも胸熱な話だなあと私は思ったのでした。
まとめ
私の名刺代わりの小説10選、いかがでしたでしょうか。
自分でまとめていて思ったんですけど、言っていいすか?
自分…ほんとバッドエンドものが好きなんだなって……
オースティンくらいしか明確なハッピーエンドものがない有り様!笑えますね!
まあマーティンの本はそこまでバッドエンドではないが、どうせ未完だから最強のバッドエンドだぞ。
でもトールキン教授も「堕落なくして物語はありえない」って言ってくれてるから……
胸を張るバッドエンド好きでした。ハッピーエンド好きはすまなかったの。