オスマン帝国:皇帝たちの夜明け
Netflix再契約したので、このメフメト二世のドキュメンタリードラマを改めて最初から最後まで見ました!
主にコンスタンティノープルの陥落がメインです。メフメトの幼少期にもフォーカスしてます。
オスマン帝国外伝ファンは地味に視聴必須かもしれません。
我らがスンビュルがいるのです!まさかのハリル・パシャ役で!!
役が真逆すぎてWikipediaを見るまで信じられなかった……マジだwwww(思わず草生える)
あとフズルがムラト役で出てたり、メフメトのママ役はキョセムのムラトの寵妃のひとりの人です。
さらにトルコ音声だとナレーションがスレイマンらしい!聞きたかった!おま言語かよ!!
でも英語版は英語版で、ナレーションはあのチャールズ・ダンスです。
そう、GoTだとラニスターのタイウィンおじいちゃんですよ!
豪華すぎて、いっそコンスタンティノス11世やってくれよ…と心底思いました。
肝心の感想についてですが、私は塩野七生の『コンスタンティノープルの陥落』を読んだり、メフメトの歴史書を読んだりしてるわりとガチ系オスマン帝国ファンなので、そこはご了承ください。
全体的な感想
おそらく視聴者全員が思うこと、初っ端から言っていいすか?
なんでオスマン艦隊の山越えで船が滑って着水するシーン作らなかったの!?
みんなこれが一番見たくて見るんじゃないのコレ!?
少なくとも私は一番楽しみにしていたので、酷い裏切りであった……
多分CGを作るの大変だったんだろうと思いますけど、いやそこはケチるところではないから!!と理解不能である。動きを表現できる動画メディア最大の利点を捨てるな(憤怒)
もうこれなら小説を読んでいるほうがいいですよね。頭の中で船がスィーって滑り台してくれるから。パチパチと拍手する兵士たちに、ドヤァ…するメフメトの姿も見れるしな。見たかったわ。オスマン帝国人はドヤ顔こそ命ではないの?(偏見)
他にも動画メディアに期待していた要素がことごとく裏切られたので、渋い評価にならざるを得ない。
海辺で馬に乗ってウロウロしながら叱咤激励を飛ばすメフメトくんも見たかったしな……
そんなわけで個人的には小説版、つまり塩野七生の『コンスタンティノープルの陥落』の圧勝ですね。
想像力の勝利な面も否めない。トールキン教授がそらみたことかとドヤ顔してる。今回に限ってはそうですね!
しかし、どうしても本を読みたくね~~という人たち向けには、オススメすぎるドラマには違いありません。
「コンスタンティノープルの陥落」ってどんな感じだったんだろう?と史実を全く知らない状態で見たら、普通に上出来なドキュメンタリードラマです。そこは私も認めるところです。
特に臨場感ある合戦シーンと大砲の迫力には私も満足しました。
だが、そこを加味しても塩野七生の小説のほうに軍配が上がるとは言っておきます。すばらしい歴史小説なので、読める人はぜひ読もう!
一応スタッフはトルコ人がメインなので、その甲斐あってか、メフメト二世の人生を丁寧に描写しているところは良かったですね!
父親との不仲、ハリル・パシャとの確執、アレクサンドロスへの憧れ、継母マラとの絆、彼の人格形成で重要なところは全部描写して解説してます。そこはさすが安心と信頼の自国製ドラマだぜ。
ただ、オスマン帝国外伝のスレイマンもそうなのですが、偉人に親しみやすい人間味を加えるためなのか、必要以上に情けない描写シーンを挟んでくるのが玉に瑕なんですよね……。特に最大の見せ場であるはずのイェニチェリと共に突撃シーン、勇み足すぎて弓矢くらってズベーっと落馬した姿に、ええ……とさすがにダサすぎて涙ちょちょ切れそうになりましたよ。そりゃ私も案外人間味のある人生を送ってきたメフメトを知って好きになったタイプですけど、それ以上にキレキレな征服マシーンとしてのカリスマ性にも惚れたから推しになったわけでね。まあそんな感じで、素直にファーティフにキャーキャーしたいタイプは小説を読んだほうが絶対にいいと忠告しておくぞ!
メフメトの俳優さんは、私はあんまり合ってないと感じている以上、評価しようがないです。どうもメフメトで一番大事なカリスマ性があまり感じられませんでしたので……まあこれは好みの問題かもしれないと思います。あと前述の描写の仕方にも問題がありそうだ。
対するコンスタンティノス11世も、チャールズ・ダンスが演じてくれればよかったのに派ですね。ちょっと年取り過ぎかもしれないけど。いや、かなり、かな?
とにかく指導者二人のキャスティングにあまり威厳が感じられられないというか……スター性があまりにもなさすぎるのはどうなんだろう……と思っているので、私の評価は渋いのです。配信サービスのドキュメンタリードラマやぞ求めすぎるな、と言われればそうなんですけど、カリスマ対カリスマの対決だからやっぱそれなりに期待しちゃうじゃないですか……。
ビザンツ帝国側はむしろジェノバ人傭兵隊長ジュスティニアーニがメインでしたね。そう、あの大戦犯ジュスティニアーニくんだ。しかもゲオルギオス(どのゲオルギオスだ?ゲオルギオスたくさん問題)の娘とのラブシーンまで入れてきて、ドキュメンタリードラマでもノルマあるんかい!と苦笑い。
あとハリル・パシャと通じていたノタラスも目立っていました。風貌がどことなくGoTジェイミーっぽかったし、侍女の子もアリアちゃんっぽいし、何ならジュスティニアーニもジョンっぽいから、スタッフはゲームオブスローンズファンなのか?それでナレーターにチャールズ・ダンスを???
私が小説でお気に入りだったトレヴィザン提督やニコロ医師、後に総主教に任命されるゲオルギオスはいませんでした。そもそも歴史の記録者たちはオスマン側のトゥルサンも含めて全然いなかったので、結構キャストはコンパクトにまとめたドラマだったのかもしれません。
それでも宗派問題が根深かったからこそ起きたコンスタンティノープルの陥落ですから、ゲオルギオス司教は必要だったと思いますが、まあキリスト教圏はあんな諍いを詳しく描写したくないんだろう!と理解しております。でもトルコ的には知ったこっちゃねえだろうけど、スポンサー様にはさすがに逆らえなかろうね。
しかし、このドラマを見て改めて思ったことは、やっぱトールキン教授はコンスタンティノープルの陥落に思いを馳せてゴンドールの戦いを書いたに違いないということでした。
映像で見ると、もうまんまだな!と心底思いましたし、教授はロマンチストやね……とも思いました。
ビザンツ帝国が滅ばなかった世界線が中つ国だったんですなあ。
メフメトが実はヨーロッパ文化に寛容すぎるところがあまり映されていなかったのは、征服というテーマがブレるから必要最小限に留めたのか、やっぱり現トルコ政権による影響なのか……。
このドラマが配信した年にアヤソフィアが再びモスク化したことは、やはり何か印象的に思います。
オスマン帝国寄りの踏み込んだ感想
二人の母親
本ではあまり触れられてないセルビア王女マラの存在感が良かったですね。
継母ですが、彼女は子供がいなかったからメフメトを素直に愛せたのですね。それは納得しちゃうかも。メフメトもマラと一緒にいた期間は長くないと思うのですが、一番つらい時期に唯一の味方してくれる女性がいたら、そらママ呼びしちゃうだろうなあ!とそのへんは上手い描写でした。史実でも丁重な扱いしてたのは事実ですからね。
この絆が後にセルビア征服へと繋がっていくわけです。メフメトもコンスタンティノープル征服後はセルビア出身者で側近を固めていったので、両者は色々な意味でWIN-WINな関係だったわけですが、マラ王女の介入が何処まであったのかは不明なので何とも言えません。しかしもしドラマの通りの女性だったとして、アルバニア・ワラキア・モルダヴィアに英傑に揃っていたのにオスマンに屈する流れになったのは、セルビアが早々にオスマンに征服されたのも大きかったんじゃないかと思うと、マラ王女もヒュッレム並みになかなか罪深い女に思えます。でも母の愛が最後に実を結んだかのようなラストの締め方は結構気に入っていますね。
そして実の母、ヒュマ・ハトゥン。
このドラマで一番気に入ったキャストと演技でした。泣きながら「もう泣いてはダメですよ」と我が子に言い聞かせるシーンが泣ける…。
そんな彼女が死んだとき、全然覚えてないと言うメフメトも史実通りっちゃそうなんですけど、そのときのシーンがサブリミナル演出だから、強がりやんけ…無理すんなよ……と可哀想になりました。
メフメトの実の母は、おそらく奴隷の女性だったから特に記録がないのだと思いますし、父親ムラトがメフメトをあまり気に入っていなかったのもそうだからだと私は思っています。
メフメトが殺した腹違いの弟は、良いところのお嬢さんが母親で、しかもムラトが慣習破りしてまで成した子供だったみたいなので、そのときのメフメトの気持ちを思うと胸が痛くなりますね。そうして彼は初めて兄弟殺しを正当化した人物になったわけです。これが後にたくさんの悲劇を生むのだ。ムラトさあ……。
しかしムラト繋がりでキョセムのムラトの嫁キャストしたのかなあと思うと、なかなか粋ですね。
チャンダルル・ハリル・パシャ
メフメトの教師«ララ»こと、大宰相ハリル・パシャ。
あの陽気で独特な楽しい喋り方するスンビュラーの顔で、虐待という名の教育している真逆の姿を見せられるのだから困惑。ジハンギルをピヨピヨあやしてたように、メフメトもあやしてくれよう!
というわけでパロ絵を描いた。なまじ同じ顔だけに…辛すぎて……。
しかし英語もペラペラなんですね、スンビュルの人。えっ吹き替えじゃないよね?本当に全然違うので、俳優ってすげえ!と思いました。
まあとにかく史実のハリルはメフメトをサイコパス征服マシーンに追い立てた立役者である。
勉強しないメフメトに体罰で無理やり打ち込ませたという記述を見たことはありましたが、ガチで本人をビシバシ打ってるとは思わなかったので衝撃でした。ヨーロッパはお付きの友人を代わりに打たせる文化だったので、オスマンも似たような感じかと思いこんでました。だって一応そんな大切な世継ぎにそんな手荒い真似する???
しかし、ムラトはメフメトではなく新しく生まれた弟に継がせようとしていたのでは?と私は考えているので、当然側近だったハリル・パシャもその考えを知っていたのではないかと思うと、メフメトに無茶苦茶やっても大して問題にはならないと思っていたのかもしれません。
だが、メフメトはしぶとく教養を身につけ、父が死ねば弟を速攻で殺し、ある種の運にも恵まれながらコンスタンティノープルの陥落も成功させてしまった。しかもおそらくハリルへの反抗心もバネにしての偉業。
そう考えると、これ以上なく大きな歴史の歯車であった人物ですね。
予言や占星術
現代人なので、思ったより予言や占星術の効果ってすごいんだなあ!と改めて再認識しました。
月蝕が不吉なのはわかりますが、オスマン人にとっては敵の凶兆が吉兆になるという文化だったのは特に初めて知りました。それでメフメトはラスト総攻撃をかけるぞー!!と気合い入れてたんですね。今の国旗が赤いのもそういう縁起も担いでいるのか?となんとなく思いました。
そしてアヤソフィアに雷も落ちると。
とにかくメフメトは色々持っている男だ……と思いました。
本人、幼少期が散々だったわけですが、ここで帳尻合わせが来たのかもしれない?
オスマン側の予言は樹の奴が印象的ですよね。葉が刃になって降り注ぐという言い回しが超カッコいいぜー!!とお気に入りです。オスマン帝国外伝が夢落ちや詩的なシーンをよく撮っていたのは、作風というよりお国柄なんだなあと改めて思いました。
いつかオスマン帝国の詩をたくさん読んでみたいです。タニス・リーも結構影響を受けているんじゃないかと思ったので。歴史書ではトゥルサンのフレーズがちょくちょく紹介されてますが、どれもいい感じにラリっていて良いです(語彙力が貧困な私の感想が哀れすぎるだろ)