タニス・リーの平たい地球シリーズのすゝめ
平たい地球シリーズとは
タニス・リーによるダークファンタジー小説、平たい地球シリーズ。
妖魔の王アズュラーンを中心に展開される、残酷で耽美な物語に病みつきになろう!
一昔の少女漫画好き、一昔のスーパー攻め様好きな腐女子に特にオススメです。
あと、なんかの元ネタとして聞いたことあるな…という方も多いと思うんです。
ぷよぷよ魔導物語のサタンさま、サガ・フロンティアのオルロワージュ、小説版ドラゴンクエストⅣのピサロ……この辺りは確実にアズュラーンをモデルにしています。製作者が参考にしていると公言しているので!
なので、それらの原作として興味がある方にもぜひ読んでもらいたいシリーズです。
私がそうだったのですが、オリジナルの格の違いってやつを見せつけられましたよ!
しかし、このシリーズ。日本ではことごとく絶版なのである。
数年前に二冊復刊しましたが、そこから新規で入った私も定価で買えたのはその二冊だけ。
あとは古本屋やヤフオクを駆使し、プレミア価格で集めました…。
そんな奇特な新規読者はそうはいませんので、ハヤカワにはせめて電子書籍化してもらいたいものです。
そう!このシリーズ導入記事を読んで「どうしても読みたい!!」という気分になって、図書館に置いてある本を手に取ったり、軽率にプレミア価格でも手にして、とにかく読んでくれる人が増えてファンも増えれば、ハヤカワも重い腰を上げてくれるんじゃないかと期待しているのです!
そんな感じで、気になっている方の導入の手引きになればと、この記事を作ってみました。
昔ハマっていて再読したいなと思った方、
新規でハマって先が気になるけど読めなくて辛いと思った方。
本は持っているけれど将来的に老眼問題が差し迫るので電子書籍を買って安心したい方(※私のこと)
ぜひハヤカワへ電子書籍化希望を出してくれると嬉しいです。
よろしくお願いします。
シリーズ各巻と簡単な概要
本編
「闇の公子」
まだ地球が平らであったころ、地底深くには妖魔の都があった。
そこに座すのは闇の君のひとり、妖魔の王アズュラーン。
彼が司るのは夜であり、美であり、そして〈悪〉である。
残酷で耽美な物語はアズュラーンが引き起こす破滅の連鎖で結ばれており、その行く末を見届けたころには、読者もすっかり彼の魅力の虜になっていることだろう。
作中の人間たちがことごとくアズュラーンに抗えなかったように。
タニス・リーの色彩豊かな描写力と圧倒的な筆力、それを古めかしく雅に翻訳した浅羽莢子の文章が素晴らしいシリーズ初作。
オムニバス形式なので読みやすく、しかしながら各所に散りばめられた伏線の、最後のシーンに向けての収束ぶりは圧巻。
アズュラーンに翻弄されて破滅していく人間の物語はどれも落とし所が絶妙で、気まぐれだが妙に公正でもある妖魔の君に病みつきになること間違いなし!
復刊したため、比較的手に入りやすい。字も大きい。ありがたい。
「死の王」
地底には妖魔の都ドルーヒム・ヴァナーシュタの他にも王国があった。
その主は、闇の君のひとりである〈死〉の王ウールム。
死から死へと地上を渡り歩くウールムのもとに、様々な人間が集う。
ある男に呪われた女王は死人との子を成し、不死にされてしまった人間は死に焦がれながら生き、そして両性具有の人間は何よりも恐れる〈死〉との対決を臨む。
そこに妖魔の王アズュラーンも絡んできた物語の結末は、闇の君たちの思惑をも超えたもの。思わず言葉を失うほどの読後感が待っているだろう。
〈死〉の王、ウールムが登場するシリーズ第二作目。
オムニバス形式の前作「闇の公子」とは違い、ストーリーが一本続きである長編大作。ちなみに英国幻想文学賞受賞作でもある。
しかし日本ではこれだけ訳者が違うのが玉に瑕なのだが、強烈な女キャラが多く出るので合ってるっちゃ合ってる。女に振り回され続けた〈死〉の最後のシーンこそ、ハードな展開が続く本作で最も心安らぐシーンになる。
復刊したため、比較的手に入りやすい。これが最初の一冊でもOK。
「惑乱の公子」
天高く築き上げられたベイベルーの塔は神々に投げ落とされた。
その残骸を後にするは、闇の君のひとり、〈狂気〉のチャズ。
狂気を扇動するチャズの前に妖魔の王アズュラーンが立つ。
嫌いながらも慕わしく、蔑みながらも惹かれてしまうのが闇の君同士。
そのような排他的家族意識に突き動かされたチャズ自身の狂気に、兄ならぬ妖魔の王の恋は絡め取られていくのであった。
〈狂気〉の君、チャズが登場する第三作目。
本作では何と言ってもアズュラーンの永遠の恋人になるドゥニゼルも登場するのが見どころ。
「闇の公子」で何もしなかった神を盲信する人間たち。そして決して顧みられないアズュラーンの苦悩。両者の間で暗躍する〈狂気〉の君チャズの台詞はどれもこれもキレキレでシリーズ屈指の憎たらしさを覚えるが、だからこそこれ以上なく真意を突いていて、ナイフの刃のようにギラギラとした存在感を放っている。
ここから復刊していないため、手に入りにくい部類。「闇の公子」を先に読んでおくべき。
「熱夢の女王」
母を失い、父に捨て置かれたアズュラーンの娘、アズュリアズ。
地底から連れ出してくれた恋人をも失った彼女は地上を彷徨う。
そこに現れたのは、第四の闇の君、〈宿命〉の王ケシュメト。
逃れられぬ己が宿命を母の墓にて思い知った彼女は、憎き父の前に再び姿を現す。
自らの分身と考えるがために、決して愛そうとはしない妖魔の親子。
しかしながら神々の戦いを通して、彼らはついに亡き母と同じ結論に辿り着くのであった。
〈宿命〉の王、ケシュメト登場がするシリーズ最終巻。
アズュラーンの娘が主人公で、シリーズのキャラが総結集する長編。特に「死の王」でメインキャラクターだった魔術師ジレムが再登場するのが熱い展開で見逃せない。
そしてラストのアズュラーンとアズュリアズの親子のシーンは締めくくりにとても相応しく、平たい地球シリーズは一応の節目を迎えている。
「闇の公子」「死の王」「惑乱の公子」全て読んでおくべき。上下に分かれている。手に入りにくい。
「妖魔の戯れ」
「熱夢の女王」の短編集。アズュリアズとチャズ中心。
「熱夢の女王」の幕間を埋めていく短編オムニバスなので、アズュラーン、ウールム、ケシュメトと言った闇の君はもちろんのこと、ハズロンドやナラセンも登場している。
まだまだ平たい地球シリーズに浸りたい方向け。
特に希少本すぎて手に入りにくい!見かけたら多少は財布の紐を緩めて即買うこと!!
番外編
タニス・リーは多作なので私も全て読んだわけではありません。
しかし、どう見ても貴方様は闇の君でいらっしゃいますね!?というファンだけがわかるファンサービス短編を2つ見つけましたので、紹介します。
「血のごとく赤く」
童話をモチーフにしたタニス・リー短編集。
「黄金の綱」がアズュラーンと転生ドゥニゼルのセルフパロディで必見!
「血のごとく赤く」では、エブリエルの前身キャラも登場。
余談だが、エブリエルについては「魔女のふたりの恋人」(悪魔の薔薇に収録)→「血のごとく赤く」→「黄の殺意」(堕ちたる者の書に収録)と読むと、キャラが完成していく様を楽しめる。
「悪魔の薔薇」
タニス・リー短編集。
「愚者、悪者、やさしい賢者」に〈死〉としてウールムらしきキャラが登場している。
未翻訳短編
“The Man Who Stole the Moon" (2001)
アズュラーンが登場する短編。
アラビアンナイト風の舞台で、凄腕の盗賊Jaqirは恋人の裏切りによって、ついに捕まってしまう。しかし王はJaqirに言い渡した。死刑を免れたければ月を盗んでこい、と。途方に暮れるJaqirだが、そこにドリンが絡んできて!?というあらすじ。
アズュラーン本人が登場する豪華な短編。時系列は熱夢の女王後の彼と思われる。微笑カウントも一回だけという覇気の無さだが、やるときはやってくれる妖魔の王が見られる。
そして管理人がド素人ながら和訳してみました。原書をお持ちの方は@10haryaまでDMでお問い合わせください。
収録アンソロジーはVenus Burning: Realms: The Collected Short Stories from ‘Realms of Fantasy’、Year’s Best Fantasy Stories2、The Manmmoth Book of Angels and Demonなど。
“The Origin of Snow" (2002)
アズュラーンが登場する短編。
若き日のアズュラーンが竜を連れて上天に赴くと、神々が何かをしているようだ…興味をそそられた彼は?というあらすじ。
タニス・リーのサイトで公開されていた。Webアーカイブでまだ原文が読める。英語が得意な方はぜひ。
有志による和訳もある。Googleで検索してみよう!
“The Snake" (2008)
ancient manという謎の存在が登場する短編。
蛇の毒により愛する婚約者を失ったZerezelは心神喪失する。娘の状態を憂えた父は世界各地に助けを求め、その使者のひとりKeshomが「Thus」の言葉に導かれ、とある見目麗しい魔法使いと出会うのだが…というあらすじ。
闇の君は誰も登場しないが、アズュラーンとウールムの存在について言及があり、master of the earthとまで豪語する男に何となくソワソワするが、それだけである。それでもancient manが何者なのか気になる短編。
物語構造は眠れる森の美女ながらもその意表を突く結末で、Zerezelもまたタニス・リーの描く精神的に逞しい女性キャラのひとりである。
収録アンソロジーはVenus Burning: Realms: The Collected Short Stories from ‘Realms of Fantasy’
“The Pain of Glass" (2009)
妖魔が登場する短編。
とある砂漠を越えた国の王子Razvedは、何処からともなく現れる狂人の老人に悩まされる日々を送っていたが、ある日、お忍びで来た市場にてガラス売りに出会う。その商人の取っておきの品を見せてもらうと、それは七色に光り、歌を歌い、口づければ我を忘れる、不思議なガラスのゴブレットであった……というあらすじ。
ウールムとケシュメトの存在について言及があるが、実際に話に関わるのは妖魔衆である。お月見のために嵐が邪魔だと派手にぶっ飛ばした、それだけである。特にアズュラーンが登場することもない。つまりかなりちょい役ではあるが、一応物語の要にはなっている。
物語は何処かオスマン帝国のスレイマン皇帝をモデルにしているのではないかと覚しき人物関係が展開される。しかしながらヒュッレムにあたるキャラは悲劇的な死を遂げ、そのおかげでムスタファにあたる王子は処刑されずに生き残る。恋に狂った名君スレイマンへのタニス・リーの私見が窺える短編。
収録アンソロジーはClockwork Phoenix 2: More Tales of Beauty and Strangeness
※KindleでVenus Burning: Realms: The Collected Short Stories from ‘Realms of Fantasy’という本を買えば、"The Man Who Stole the Moon"、"The Snake"の2本が読める。オススメ。
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