冬物語
ねんがんの『冬物語』をてにいれたぞ!
タニス・リーの本の中では地味に争奪戦になるタイトルで、私も先日ようやく手に入れることができました。
というのも、この本は表題の「冬物語」と「アヴィリスの妖杯」の2篇が収録されているのですが、
前者は『ロマンシング・サガ』の元ネタのひとつ!
後者はトールキンオマージュ作品!
タニス・リーファン以外もほしくなる本なのか、出品されたら地味に瞬殺されるタイトルでした。
『妖魔の戯れ』だけ買って『冬物語』も買わなかった昔の私を殴りたかったですよ。本当に。
他のタニス・リー本のついでに買えればいいやと、たかをくくっていたら2年経ってしまった…。
というわけで、最近タニス・リーファンになった人たちに告ぐ。
『冬物語』は見かけたら即買いすべき本です!
昭和57年に発行された本なので、出てくるものはほとんど状態悪くて当然です。私みたいに確実な美品を狙いに行くと、軽く2年お預けになるほどドツボにハマるぞ。ディープなロマサガファンも狙っているからライバルも多い。悩む余地はない。とりあえず確保するんだ!
原書なら『Companions on the Road』という原題で、Kindleにて手軽に買えます。参考までに。
アヴィリスの妖杯
闇の力と通じているというアヴィリスの領主。戦に敗れ、城は焼け落ちた。
隊長をやめながらもハヴォルは戦死した新兵のために、そこで手に入れたアヴィリスの金の杯を金に替えるべく、二人の連れと共に街を出た。
平等に山分けしようと誓いを立てるも、お互いを警戒し合う3人。
しかしそんな3人の後を、いつのまにか現れた黒の乗手が何処までもつけてくるのであった……。
それなんて『指輪物語』?
というわけで、タニス・リーによるトールキンオマージュ作品!
つまり推し作家が推し作家のパロディを書いとる!!これは絶対に読まねばなるまい!!
それを知ってから、『冬物語』……殺してでもうばいとる!!モードに入ったのは言うまでもない。まあ「な なにをする きさまらー!」と言うハメになったのは私だったんですけど。ヤフオクは業者が跋扈しすぎている…危うく髪がハゲるところだった……(ロマサガネタ)
そんな感じで苦労して手に入れた甲斐は、もちろんありました!
私はわりとディープなほうの中つ国ファンですが、「アヴィリスの妖杯」はトールキン作品をとてもよく分析したうえで書かれている素晴らしいオマージュ作品だと断言します!
一つの指輪ならぬアヴィリスの妖杯の魔力に翻弄されながらも、“憐れみ”をもって闇に打ち勝ち、馳夫のように流れ者だった主人公が最後にようやく“家”というものを得て帰ることができたハッピーエンド。
まさしくトールキン作品のテーマをあますことなく汲み取った作品に仕上がっていて感心しました。今回は私も元ネタを熟知しているだけに、タニス・リーの作品分析力、アレンジ力、筆力がとてもすごいことをより実感できましたね。
そんなわけで、ここからは中つ国ファン視点による感想をダラダラ書いていきますね。
主人公のハヴォルは、キャラがとても野伏時代のアラゴルンというか馳夫でしたね~。名前はおそらく『シルマリルの物語』のハドルの一族からもらっているのでしょう。ちなみに私がよく話題に出すトゥーリンもハドルの一族です。ハヴォルの渾名は馳夫ではなく鷹でした。そこは鷲じゃないんかい。
元ネタの『指輪物語』ではフロドが一つの指輪の運び手でしたが、タニス・リーはキャラ造型がアラゴルン寄りのハヴォルに呪いのアイテムを持たせてみたわけですね。まあハヴォルは別にやんごとない生まれではないので王の帰還はしないのですけども、流れ者生活の中でも擦りきれてない良心を随所に覗かせるキャラクターで、これは西におられるニエンナ様も誇らしく思うであろう主人公ぶりでした。しかしそれゆえに一つの指輪ことアヴィリスの杯という呪いのアイテムにかかわるハメになったのですが。
そんなわけで彼の旅の仲間も、確かにレゴラスとギムリっぽい見た目の男たちなのですが、中身はもちろんタニス・リーの得意とする癖のある俗物系キャラたちに置き換えられていて、そこが読んでいて面白かったし楽しかったです。
アヴィリスの妖杯の最初の犠牲者であるカキル。
手癖が悪く、その生涯は不運で、気狂いな笑い声をあげる。
よって最初はゴラムポジションかと思ってましたが、彼はむしろトールキン教授も元ネタにした『ベーオウルフ』に登場するドラゴンを叩き起こしたキッカケの杯泥棒そのままでしたね。中つ国ではそのエピソードは『ホビットの冒険』のスマウグとビルボになりました。タニス・リーもそれを把握していて、ドラゴンの炎に焼かれるように、あるいは滅びの山の火口に落ちたかのように、カキルを熱病の内に死なせたのだと思います。ハヴォルの見た幻では狐となり暖炉の火の中に飛び込んだ彼に、やはりゴラムの面影が強く見えましたね。
その次の犠牲者はフェルース。
彼は実にタニス・リーな典型的イヤミ美形男というかクズでしたね。口が悪すぎて好きでした。いつハヴォルの寝首をかきにいくのかワクワクしていたのですが、意外と最期までハヴォルに手を出しもしない、そこはレゴラスリスペクトなのかと笑っちゃいましたね。もちろん性格は『シルマリルの物語』で言えばアンドローグが一番近いうえに、宿屋での所業が女の敵すぎるので、彼の末路にはスカッとしました。
またこれも『ベーオウルフ』の巨人グレンデルのエピソードを思い出させる感じで、さながらグレンデルの母に沼へ引きずり込まれたまま亡くなったフェルースの最期、因果応報で良かった。このグレンデルのエピソードも、中つ国では死者の沼として登場しています。
つまり『ベーオウルフ』はトールキン作品から切っても切り離せない存在なのです。だからタニス・リーも、ふたりのお供の死を揃って『ベーオウルフ』の展開に沿って書いたのでしょうね。そういえばハヴォルやフェルースが使えていた王も“熊”を紋章としてました。さすがです!
そうして、ついにひとりになったハヴォルはアヴィリスの妖杯に独りで抗うことになりました。
アヴィリスの妖杯、本当に一つの指輪の描写をタニス・リーの感性によって書かれているようなものなので、それだけでも読んだ価値がありました!私が特におっと思った、踊る仔馬亭ならぬ踊るクロトリ亭でのシーンを引用しますので、ぜひこれだけでも直接読んでください!
皮の袋が揺れ、かしぎ、椅子からすべって落ちた。それは石を敷いた床にあたって、うつろな鐘のように鳴り響いた。中に詰めておいた、どうということのない品物がころがり出る。摩訶不思議な、ありうべからざるやりかたで皮がめくれあがったように思われた。炎が不意に突き刺すような光を放ち、大杯の金色のふちを走った。
タニス・リー「アヴィリスの妖杯」『冬物語』
それまでも静寂はあった。飽和し、たれこめる静寂が。しかし、今あらたにおとずれた静寂は、それまでの静寂を市の日の人出の喧噪と変わらぬものにしてしまった。それは壁から湧き出し、石の床からたちのぼってきたかのようだった。太古の恐れと、それを知る幾世代もの人々によって形づくられた静寂。動くものもなかった。身じろぎひとつする者はない。どの目も、床の上の一点、炎が凍りついた輝きでえがき出してみせる、まばゆいばかりの丸い口に、その奥の黒々とした深淵に釘づけにされていた。ハヴォルはいつしか、夢を見ている時のような混乱した頭で、まだこの奇妙な角度から大杯を眺めたことはなかったな、と考えていた。上からのぞきこむとあの言いつくせぬ美しさは失われ、それはむしろ、一杯に開いて待ち受ける丸いあぎとを思わせるのだった。
そう、杯の縁が光る様はまさしく指輪、杯の奥にたまる暗闇は全てを繋ぎ止めようとしているかのよう!
トールキン教授が元ネタにした『ベーオウルフ』の金杯まで遡り改変しつつも、しっかり一つの指輪もそこに表現してみせたタニス・リーの発想力に脱帽です。すばらしい元ネタリスペクト描写!!
そして更にタニス・リーは一つの指輪ならぬ一つの杯を、アディリスの領主の娘として、金髪少女に擬人化して表現してみせたのです。
ちょうど彼女が出てきたところで、読書BGMにかけていたロードオブザリングサントラがまたゴラムソングを流してきたものですから、私は思わず唸ってしまいました。
タニス・リー先生、ロードオブザリングでゴラムソングを聞いた時、とても嬉しかったんじゃなかろうか?なぜかというと、ゴラムソングは一つの指輪のテーマのメロディに乗せて少女の声で歌い上げた鬱ソングですから。アディリスの妖杯での先生の解釈、完璧に表現しとる!!と私も感動してしまいました。
そして彼女の親兄弟も含めてアヴィリスの一族が幽鬼となって、黒の乗手さながら蹄を鳴らしてハヴォルたちを常に付け回すのです。『指輪物語』のナズグル、かつては王だった人間の成れの果て。数は違いますが、9人というワードは別にしっかり出てきます。やっぱり黒の乗手に追いかけ回されるというシチュエーションは最高だな!!と、この「アヴィリスの妖杯」でも不気味さと緊張感を与えてくれました。
しかし、そんなアヴィリスの妖杯の呪いはというと、一つの指輪に比べればわりとちゃっちいものでありまして。人殺しになるほど奪い合いは発生しませんし、そもそも夢うつつ状態でなきゃ発動しません。
なので、ハヴォル、スーパーカフェイン的なものを調合してもらって寝ずの徹夜組となる。えぇ…ピピンとメリーを追いかけていたアラゴルンたちもさすがに一晩は休んどったから……。あまりにゴリ押しなその場しのぎの仕方に、読者も先行きが不安になります。しかも彼のゴラムポジションであるカキルは既に死亡、よって迷いまくることに。
雪の上で力尽きかけていたところ少女に微笑まながら、ブレゴにも逃げられたハヴォルは森を彷徨うことなります。ここのところは『シルマリルの物語』を思い出す感じでしたね。冬のドルソニオン的な舞台で、出てきた狼はフアンかと思いました。だからヒロインであるシルシィに殺されてちょっと泣いた。
シルシィは、特にトールキン関係で思い当たる節がないキャラなので、タニス・リーの完全なオリジナルキャラですね。というかタニス・リーの分身なのかもしれない。最後のセリフが作者の代弁すぎんよ!
彼女に、そもそもの目的だった弟ルーコンの戦死の知らせと仕送り金を渡し、これ以上呪いの影響を与えまいと去っていったハヴォル。廃坑山となった採掘場にて杯を埋めだしたときには、おいおいちょっとタニス・リー先生それはあんまりだぜー!と思ったのですが、タニス・リーを甘く見すぎた私のほうが愚かだったのです。アヴィリスの妖杯は埋めてもハヴォルを逃しませんでした。
ついにもう限界だ俺は寝るとスヤァ…したハヴォルは、幻覚の中でバラド=ドゥーアじみた塔に立たされます。埋めた杯も掘り出させられて、そこにある。絶望し落とされるのを待つばかりだった彼に、死んだルーコンとその家族が現れます。彼らは、ハヴォル自身が信じようとしなかった彼の善意を信じて、アヴィリスの闇を払うべく現れたのです。またハヴォルに哀れまれたアヴィリスの一族も、その憐れみが耐え難いものでした。よって彼は再び朝日を見ることができたのです。
この暁の描写がまた素晴らしいですよね!トールキン教授も暁の光は希望の象徴として印象深く描写してますから、元ネタリスペクトしつつ、タニス・リーの鮮やかな朝の文章が本当に美しいです。『闇の公子』のクライマックスシーンを読んだときから、彼女の書く朝焼けの描写は世界一だと信じてやまないです。
そしてアヴィリスの妖杯の幻覚に悩まされ続けてきたハヴォル。
こんな呪いのアイテムを無責任にそこらに捨ててはいけないとエルロンド卿たちに言われるまでもなく重荷として必死に背負い続けてきたわけですが、呪いの魔法が解けてしまえば、それはただの杯でしかありません。なので別に彼には滅びの山へ行く必要も最初からなかったわけです。
なので、なるほど!!とそのオチに納得しました。一つの指輪に比べてスケールを小さくし、全て幻覚の内に収められる構成と描写にしてきたタニス・リーの計算が見事です。自分の善性に懐疑的であったハヴォルが幻覚に悩まされてきたのは当然ですし、シルシィという他人から善意を肯定されることでようやく彼は自分という人間がどういうヤツか、自覚できたのでしょう。そして幼少期に僧侶に鞭打たれて生きてきた彼が、やっと祈りの言葉を唱えられたところは、宗教的な吉兆というよりは自己肯定による救いの前触れに私は見えましたね。特に何も信仰していない私ですが、宗教の真髄はそこにあるのだろうだろうなとは思っています。
そのような感じで敬虔なキリスト教徒であったトールキン教授にも失礼のないようにクライマックスを書ききったタニス・リーは、ハヴォルを“家”に帰らせるのです。ビルボのように、フロドのように。ああこれ、このラストこそがトールキン作品への最高へのリスペクトだなあ…と私は大変満足できました。
冬物語
海辺に住む巫女オアイーヴの前に現れた謎の男グレイ。
神殿の大切な宝である聖骨を盗まれたオアイーヴは、村から飛び出し、盗っ人グレイをたったひとりで追いかける。
魔法使いであるグレイは巧みに彼女の尾行を撒こうとしているようで、見失わない程度には手がかりを残していくのであった。まるでオアイーヴを試しているかのように……。
黒の乗手に追いかけ回された「アヴィリスの妖杯」とは打って変わり、盗まれた聖骨を取り返すために巫女オアイーヴが謎の男グレイを追いかける話です。そして最後、この構図が逆転した結果のエンディングがすばらしかったです!
精神的にたくましいヒロインが何処か頼りない王子様のために悪役キャラと対決する、いかにもタニス・リーな構図の話なので、私は大変気に入りました。他にも『幻魔の虜囚』、『死の王』、『薔薇の血潮』と読んでいる私ですが、そこにこの『冬物語』を加えて、タニス・リーは形を変えながら同じテーマを書き続けているような気がしてなりません。その原点の作品をやっと読めただけでも、タニス・リーファンとして感無量な気持ちになれました。
『冬物語』のヒロインであるオアイーヴとそのお相手であるグレイは、タニス・リー作品の中でもかなり魅力的なカップルのほうで、とても気に入りましたね。逆に悪役のナイワスは、『冬物語』での彼を更に深くキャラを掘り下げた結果うまれたと思しき『幻魔の虜囚』のカーニックのほうが魅力的だったかなあと思います。『冬物語』ナイワス→『幻魔の虜囚』カーニック→『闇の公子』アズュラーン→『薔薇の血潮』アンジェレンの系譜も気になってきたこの頃です。
あと解説によれば、この「冬物語」はアーシュラ・K・ル・グィンの『ゲド戦記』のオマージュ作品らしいです。
ここでまず申し開きしますと、私は今のところアーシュラ・K・ル・グィンの本は一冊も読んだことないうえ、ジブリの『ゲド戦記』も全く見たことないので、そのオマージュに触れながら感想を書くことは全くできません。スミマセン。
なので、私は逆に、この「冬物語」を元ネタにしているという『ロマンシング・サガ』シリーズファンから見た感想を書いていこうと思います。
これは別に私の勝手な言いがかりというわけではなく、『ロマンシング・サガ』シリーズのディレクターである河津秋敏氏がツイッターにてこのように発言しているのです。
グレイは『ロマンシング・サガ』の主人公のひとり。
そしてオアイーブは『ロマンシング・サガ2』のキーパーソンとして登場しているキャラです。
いずれもこの「冬物語」のメインキャラクターから名前を拝借しているということになります。「冬物語」を読めばわかることですが、名前だけでなくキャラもだいぶ参考にしてアレンジされているなと私は感じました。どころか、話の構造まで『ロマンシングサガ2』の肝になっている有様ではないか!ディープなロマサガファンにとっては必読すべき本と言えましょう。
ちなみにもう一方で触れられている吟遊詩人は、「冬物語」にはいないように見受けられます。私もタニス・リーの作品を全て読んでいるわけではないので、特に強くこれ!と言った元ネタを自身を持って言えないのですが……『血のごとく赤く』に収録された「報われた笛吹き」や、正体は神ではないものの『闇の公子』のアズュラーンの振る舞い方も影響を与えていそうと思いました。彼もまた正体を隠して世界を放浪しながら人間に直接関わろうとする、神に近い存在です。個人的にはその辺ひっくるめるとむしろ北欧神話のオーディンが大本になる気がするんですが、何より『ロマシング・サガ』のリメイク作であるミンストレルソングでの吟遊詩人は、キーアイテムであるデスティニーストーンを自ら渡したと思しき相手は全て“女性”なので、そこにタニス・リーの影響が強く見えるような気がします。そしてアズュラーンは『サガ・フロンティア』ではオルロワージュとしてキャラがまんま引用されてしまうのであった!
あんたもタニス・リーが好きねぇということで、私も『サガ』シリーズのゲームは結構プレイすることになりましたが、そのへん語ると長くなるので!
とりあえず今は『冬物語』にフォーカス当てて書いていこうと思います。
核心的ネタバレに触れざるを得ないので、『冬物語』を今後読む予定のある方はここで読むのを一旦やめておくことをオススメします。
まず『ロマンシング・サガ2』と言えば、伝承法による皇位継承システムが特徴的なゲームです。
プレイしたことのない方に軽く説明しますと、プレイヤーが動かす皇帝キャラがあえなく戦死もしくは年代が進むと、次世代に能力と志を受け継がせるためにこの伝承法が使われます。その秘伝の魔法を伝えたのが、オアイーブという古代人の女魔導士でした。その伝承法を駆使しながら、皇帝は幾世代にも渡り、長命で時には復活さえもしてしまう七英雄という恐るべき古代人たちと国の存亡をかけて戦うのです。
この伝承法、いわば歴代の皇帝たちを降霊術によって現在の皇帝に共有させているようなものです。「冬物語」の悪役であるナイワスもまた、グレイの降霊術によって死霊が他人の身体を乗っ取っているという実態で、その発想はここから来ているのではないかと思われます。ちなみに『冬物語』の元ネタである『ゲド戦記』でも死霊を呼び出す話のようなので、タニス・リーもグレイの生い立ちを書く際にかなり参考にしたのではないかと、『ゲド戦記』のレビューをちらっと読んだだけの私でも感じました。
そして古代人たちも、この伝承法の元となる同化の法で魂を新しい肉体へ移すことで生き永らえている存在だったようで、そういう意味では全員ナイワスなのですかね。その新しい肉体とやらは何処から調達しているのか考えると、死すべき定めにあるプレイヤーにとってもオアイーヴたち古代人は不気味に映るでしょう。皇帝に伝承法を授けたのも、彼らに追放されて恨みを抱く七英雄の復讐を撹乱させるために見えなくもない。私はその薄気味悪さと冷徹な設定が好きでしたね。
そんな感じで『ロマンシング・サガ2』のオアイーブは伝承法を授ける黒幕的存在でしたが、元ネタのオアイーヴはむしろその伝承法を阻止するために奮闘したキャラで、私は驚きました。
「冬物語」は後半にて、その話がSF的円環構造であることが発覚します。グレイの行なった降霊術を発端に、オアイーヴの時を越える魔法が作り上げた、永遠にループする世界です。グレイはそのループでしかオアイーブと出会えないと考えていたせいか、ナイワスに呪縛される人生と時の囚われ人であり続けることに甘んじていました。しかしオアーイヴは、やっと自由になってもしもの幸せに輝く顔を見せたグレイのために、そのループを壊しに行くのです。
これだからタニス・リーのヒロインが好きでたまらない!と私はオアイーヴちゃん大好きになりました。こんな強くて可愛らしい元ネタを知ると、最近『ロマンシング・サガ2』のオアイーブにノエルに懸想している設定が突然生えてきたのも、なるほど…そういうことか!と思わなくもありませんでした。でも、やっぱり冷徹すぎる古代人代表なオアイーブのほうが話に深みを感じられたので、蛇足かなと私は思っています。
グレイに関しては、まず、キャラデザがまんますぎるだろ!!と笑いました。
灰色髪、剣持ち、青い服、狼の毛皮を背負っているかのようなモフモフ長髪……役満ですよ!!
確信犯な河津氏のあからさまな指定にアレンジを加える小林智美さんの仕事ぶりにはいつも感心させられますね。
スーパーファミコンで発売された初代『ロマシング・サガ』から馴染みのある方には抵抗あるようですが、リメイク作であるミンサガのキャラデザは元ネタにより沿っているデザインに変更したんだなと気づけて感心しました。まあ開き直っているとも言う。私がこのグレイ(冬物語)の他に確実な元ネタが思い当たるキャラは、シフ(北欧神話)、ナイトハルト殿下(エルリック・サーガ)くらいですが、一番気になるのはやはりアルベルトですね…あの奇抜な羽を背負ったデザインの元ネタを知りたい!
『ロマンシング・サガ』のグレイは、主人公の中でも何も特別な背景がないキャラですが、彼のテーマ曲名は“絶対自由”。「冬物語」を読んだ後だと、なんか感慨深く思えてしまうタイトルですね。元ネタのグレイは操り人形だった人生ですから……。彼がナイワスに親父まで殺したと語らせられたシーンは、辛いけどエモかったですね。
そして彼の本当の名はシルディンで、同じく『ロマンシング・サガ』の主人公であるクローディアが連れていた狼シルベンを思い出しますよね。確実に「冬物語」を意識して命名されたのでしょう。クローディアもグレイとの絡みが多いキャラで、彼女もまた魔女に育てられたので巫女みたいなもの。元ネタのお相手であったオアーイヴの面影が見えなくもありません。
ちなみに「冬物語」のグレイが「灰色の髪に生まれついたがために、魔術師として大成すると周りに期待されたものだ」みたいなこと言っていたのは、もちろん『指輪物語』の灰色のガンダルフのことを指していて、それにあやかったのでしょうね。『ロマンシング・サガ』のグレイに魔法使いらしさはあまりないですが、ミンサガで追加された刀の声を聞くことができるイベントに強いてその面影を見出せるかもしれません。刀のイベント、面倒だったので、私はもううろ覚えなんですが……。そういったアニミズムは、この「冬物語」を更に発展させたと思われる『幻魔の虜囚』のほうに印象的なシーンがありますので、グレイファンはこちらも読んでタニス・リーにハマればいいと思います!
『ロマンシングサガ』シリーズとの関連性は以上になります。
というわけで私の『冬物語』の感想はこれで終わりです。
ここまで長々と読んでくださってありがとうございました。
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